小さなポケット一杯の物語
物語2:小さなポケット一杯の愛 第一章:謎の男
私にはもう思い残す事はない。
優しい妻にも恵まれた。
そしてわが娘を抱く事も出来た。
そして、一時ではあったにせよ、地位も名声もそして夢も、手に入れる事が出来たのだから。
何をためらっているんだ。この屋上から飛び降りても誰かを巻き込む事はないし、きっと朝には掃除のおばさんが発見してくれる。
何の心配もない。なのに最後の一歩が踏み出せない。
何をしているんだ。このままでは茜の命を救えないじゃないか!

「おじさん、さっきから何やってんの?」

上から若い男の声がした。
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