無意確認生命体

4.

……きついなぁ。今日はホントにきつかった。

夜、布団に潜りながら、ようやく今日が終わることに安堵する。


あの後、柏木くんは茫然自失で、授業中もずーっと机に突っ伏していた。

後ろの席にプリントを配るときも、私が声を掛けてみても無反応なままだった。


でも、私だって、あんな断り方はしたくなかった。

あんなの、自分が言われたら傷つく。


……だから、あの前の段階で諦めてほしかった。


今回の、あの例えは結構上手く言えたと思った。


「――でも、伝わらないんだな、これが」


あはは。何言ってんだろうなぁ。

当たり前じゃないか。

ホントに伝わっちゃったら困るから、ああいう回りくどい言い方にしてるんだから。


……ああ、きつい。


私はもともと、押しの強い人間じゃない。

だけれども、ああいった状況には割とよく陥る。

理由は先刻も申したとおり、私の面《かお》が可愛い、らしいからだと思う。



普通の女の子にしてみれば『可愛い』は褒め言葉だろう。

でも、私に限ってそれは褒め言葉としての意味を成さない。


私、近江雌舞希という人間からしてみれば、面が良くても「意味がない」。

男にもてることも「意味がない」。

だから、オシャレをすることも「意味がない」のだ。


別にこれは自分自身を卑下しているわけではない。

文字通りの意味で、「意味がない」というだけだ。

だからしないし、できればしてほしくもない。


できるかぎり目立たないでいたい。


私の人生において意味のあるものは、お母さんが残した言葉ただひとつ。


「常に危機感を持って行動する」こと。

それだけ。


今回は危機を回避するためには、あの断り方をする他なかった。そう思おう。

だって本当にきついのは、私じゃない。

本当にきついのは、必要ないと、興味がないと、いらないと、切られる方だ。

だから、きついのは、私じゃない。



……私じゃ、ない。
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