無意確認生命体

「で、なんでオレのおごりになるワケよ?」


その日の昼休み。

志田少年は当然の愚痴をこぼす。

「はんは! ほんはのほはほあへはははえふひ!」

私のためという名目で無理矢理志田におごらせたパンを、何故か自分が口いっぱいに頬張りながら、なにやら鳴いている悪魔ミッチー。

「おいよ! 近江雌舞希! どうなってんだこれは!」

「知らない。私は止めました。文句はそっちのほお袋娘にどーぞ」

「ほいひは! ……ん、んぐ、ごくん――。アンタ! いたいけな美少女が体調崩して弱ってるってゆうのに、一肌脱ぐ器量もないっての! この狭量! 非情者!」

「や、だから人肌脱いでんじゃん。このパン」

さすがに志田に「生理で弱って」とは言えない。


――てゆうか、美少女とか言うな。


……にしても、こんにゃろう。

上手いこと言って目の前に広がるこのパンの山から、一体どの程度を私が食べられるって言うんだ。

……食欲だってなくなってるのに。


完璧テメー、自分で食う気満々じゃねーか!


……なんてつっこむ元気もない。


「まったく、いい性格してんな。キミのご友人は」

「私のためなら粉骨砕身《ふんこつさいしん》なんだって。あはは……」

「砕くんなら自分の骨にしてもらえると、ありがたいんだがなー。オレとしては」

苦笑いし合いながら、美智が食い尽くしてしまう前にひとつパンを手に取る私たち。

「美智。ってゆうかアンタお弁当は?」

「何言ってんの! そんなの部活の後に、ひうはえほふえふ!」

喋りながら食べるな。

お行儀が悪い。

普段私の身支度にはうるさいくせにコイツは……。

< 93 / 196 >

この作品をシェア

pagetop