海に降る恋 〜先生と私のキセキ〜
「さく、よく分かるね!こんなの!!」


広げている簿記のテキストを投げ出しそうになっているのは瑞穂だ。



3年生になった私達。


瑞穂の簿記嫌いは相変わらずで、2年生の時に学んだ基本の部分から理解していないものだから、


「3年の簿記はサッパリ分からない。」

といつもボヤいていた。


「んー…だからさぁ、ここは…」


どう説明したら分かってもらえるだろうかと、私なりに言葉を選びながら瑞穂が分からないと言っている問題の考え方を説明する。


「んー…。」


説明空しく、瑞穂の険しい表情は崩れる事が無さそうだ。


3年生になっても各教科の担当教師は同じ。


だから簿記とワープロの授業でこれからも相葉先生に会える事が嬉しかった。


だけど同様に、大崎先生の古典も続くのだ。


喜んだり嫉妬したり、2年生の時と同じ位、大変な1年になりそうな事は言うまでもなかった。


梢は受験に向けてますます勉強が忙しそうで、正直、梢がどんな勉強をしているのか私には全然分からなかった。


その位、3年生が始まった時点で進学組と就職組の間には違いがあり、


梢と私の間に、どんどん距離が出来ていくようで寂しく感じる事もあった。



変わった事は他にもある。


相葉先生が部活の顧問になった。

担当は硬式テニス部。


去年は特に担当もなく、割と自由にしていたように見えたけれど、


今年からは部活の顧問になったの為、放課後には校庭のテニスコートや体育館にいる事が増えていた。


生徒が先生と一緒にテニスをしている様子を見ると、とても羨ましくて、


『私もあんな風に相葉先生と過ごしたい。』


そう思う度にテニス部に入ろうかと考えたけれど、


うちの学校のテニス部はなかなかの強豪校だったせいか、かなり練習がハードで

『テニス自体は得意でも、基本的に運動が苦手な私にはキツイかな…。』

と、怖気づいていた。


それに3年生になってから急に部活に入るなんて、流れとして余りに不自然に感じる。


そんな理由で、私が部活に入る事はなかった。
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