ぜんぶ抱きしめて。〜双子の月とキミ〜


そう思って歩いていると、偶然にバス停に一台のバスが停まった。総合病院の方から来るバスだなあとぼんやり表示を見ていると、その中から瑠奈が降りてきた。

ものすごい偶然だ。声をかけようとしたら、瑠奈は家とは逆方向、すぐそこの公園の方へ歩いていく。いったいどうして? 不思議に思って声をかけた。

振り向いた瑠奈の頬はまだ赤くて、自分がしてしまったことを思い知って胸が痛くなった。

謝るけど、瑠奈の表情は硬い。いつからだったかな。昔は天真爛漫だった瑠奈が、だんだんとこういう硬い表情をするようになったのは。

結局瑠奈は家に帰ろうとせず、公園に向かった。彼氏と待ち合わせなんて、本当だろうか。自分から聞いておいて、そうだと言われると信じられない気持ちになった。

小さい頃から知っていた瑠奈が、昔は平気でパンツ丸見えではしゃいでいた瑠奈が、いつの間にか大人になってしまっていた気がして、無性に寂しくなった。

彼氏って、どんなやつだろう。そこの公園まで来ているなら、迎えに来てやればいいのに。こんな暗い人気のない道を、一人で歩かせるなんて。

興味と少しの怒りを持って、瑠奈のあとをこっそり尾行する。俺もいったい何をしてんだろう。そう思いながら、放って帰ることはできなかった。


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