檸檬の約束
ある日、珍しく綾人は会社を休んだ。

寒気と頭痛がするのだという。

「今日は私が家事するから、綾人は寝てて。」

「それは無理。」

「莢が家事したら後で片付けが増えるから。」

「じゃあせめてお粥作らせて。」

「何も食べないと体に悪いよ。」

「作れるのか?・・・食べれるもの。」

「もおっ、お粥くらい作れるもん。」

「お米とお水入れて煮るだけでしょ?」

鍋を奪い取ろうとする綾人を無理矢理ソファに連れていき休ませてから私はキッチンでお粥を作ろうと材料を探し始めた。

冷蔵庫とパントリーをあさると材料は全部あった。

キャベツ、ニンジン、鶏肉、中華スープの素、冷やごはん、水、卵。

材料を切って調味料を入れて煮込むだけのごく簡単な、私の唯一の誉められレシピだった。

「綾人-?」

出来上がってソファに近づくと綾人は眠っていた。

汗をかいていたのでタオルで拭こうとしたら綾人が何か呟いた。

「鈴歌・・・。」

(すずか・・・奥さんの名前?)

ツキン。何故か胸が痛くなった。

「綾人。起きてよ・・・。」

(起きて、私を見て)

「莢?」

「お粥、出来た。」

「へえ・・・美味そうだ。」

「これだけは自信があるよ。」

「美味しいよ。」

「ね、綾人。」

「鈴歌って、誰?」

「・・・前の奥さん。」

「そうなんだ。」

「私バイト行ってくるから。」

「お粥、全部食べてねっ。」

綾人と暮らし始めて2か月。

私はどうしちゃったんだろう。

「檸檬なんかなくなればいいのに。」

私と綾人の檸檬の約束。

進まない、進めない想いを抱えてココロは道に迷っていた。
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