【極誠会】ワンナイト。
店を出た我龍は不本意に切り上げてしまった分をどこで飲み直すか思案しながら飲み屋街を歩く。
眠りにつくにはもう少しアルコールが足りないと感じながら馴染みの店が近くにあるのを思い出した。そっちに向かおうとした矢先、タッタッと走る音が近くに聞こえたかと思うと急に腕が引っ張られる。

「まって…っ!ねぇ、逃げないでよっ」

振り向くと肩下まである緩く波打つ髪を揺らしながらさっき隣に座っていた女がスーツの肘の辺りを掴んでいた。

「おい離せ」
「いや…だって置いていくでしょ」
「酔っ払いに絡まれるのはごめんだ」
「あなたも大概飲んでたでしょ…しかも明らかにやけ酒」
「うるせぇ。女を慰めようなんて気分じゃねェんだ離せ」
「慰めなんていらない…っお願いだから置いていかないで…!!」

必死に腕を掴むその手はよく見ると小刻みに震えていた。
我龍は大きくため息を吐き、彼女に向き直る。腕を掴んでいた手をいとも簡単に引き剥がし、それを握ったまま顔を近付けて低い声で囁いた。

「ただの捌け口でいいってんなら来い」

「……っ!」

不意に詰められた距離と耳に響く低い声に力の抜けた彼女の身体を握っていた腕だけで支えると我龍は呆れたような表情で呟いた。

「…帰った方がいんじゃねェのか」
「か、帰らない!!」

頑なな様子の女に、口を引き結んだまま我龍はくるりと前を向いて歩き出した。
飲み屋街を抜けて怪しいネオンがそこらで光る通りに出ていく。目の前を歩く白いスーツの大きい背中にまだ漠然と現実感のないまま彼女は後ろを付いていった。

我龍が適当なホテルの部屋に入ると振り返った彼女の腕を引いてベッドに倒した。

「きゃ…っ、あ……」

戸惑いの表情を見せる彼女にジャケットを放り出した我龍が右手でネクタイを緩めながらベッドに上がる。
男が近付く度にギシリとベッドが軋み、距離を詰められていく。眼鏡の奥の鋭い目から視線が外せない。
改めてこの状況を認識したのか、彼女は目の前の男が自分の上にのし掛かりながら顔を近付けるのに急に恥ずかしくなって頬を染めた。

もう少しで唇が触れるかという距離。
何とも言えない強烈な男の色香に酔いが回るようにくらりとする。

「あ、の…シャワーとか」
「まどろっこしいな…黙れよ」

なんとか発した彼女の言葉に我龍は眉間に皺を刻み、肘で身体を支えていた彼女の胸元を腕で押してベッドに沈ませた勢いで口づけた。

「んッ…、んんっ」

唇を抉じ開けるような荒々しい口づけに彼女はただ受け入れることしかできない。呼吸すら奪うような激しく乱暴なやり方に酔いに浮かされる彼女の身体は熱を灯した。


< 2 / 4 >

この作品をシェア

pagetop