難攻不落な彼に口説かれたら
【番外編】焦らずゆっくり ー 小野寺拓海side
「小野寺君、好きなんです。付き合ってくれませんか?」
受付の桃園が、俺の手をギュッと掴んで上目遣いに俺を見る。
潤んだその瞳。
可愛いとは思わない。
むしろ、ウゼー。
ランチの後にこの女に捕まり、雪乃先輩絡みと思って大人しく誰もいない会議室までついて来てみれば、まさかの展開。
桃園の告白に、去年の納会を思い出す。
仁があっさりこいつ振ったんだよなあ。
まあ、奴は雪乃先輩と付き合っていたのだから当然と言えば当然。
付き合っていなくても振っただろう。
こういう女が欲しいのは、金とか地位とか、見目のいい男。
俺に恋なんかしていない。
メンドーな女に捕まってしまったな。
今は四月中旬で、桜はもう散ってしまった。
会社は叔父が社長の座を専務に譲り、経営陣は交代。
古賀さんや仁の役職に変動はなかったが、今年の十月の人事で恐らく彼らは経営陣に新たに加わるのだろう。
俺も謹慎が解けて、この四月から経営企画室に戻った。
キャバクラの女が雪乃先輩に怪我を負わせた日から、女遊びはしていない。
今は借金返済のため、真面目に働いている。
だが、この女は変わらない。
「誰がお前なんか相手にするか!」
軽蔑するような眼差しでそう告げると、バシッと桃園の手を振り払った。
「え?小野寺君?」
素の俺を見て呆気に取られる桃園。
その間抜け面を見て少し溜飲が下がった。
会社で素の俺を知っているのは、ほんの数人。
普段は会社で好青年を演じているが、本当は違う。
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