「先生、愛してる」
柏木秋奈の場合

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授業が終わった放課後、私の胸の鼓動はいつもよりうんと速さを増していた。胸の奥で、心臓が勢いよく跳ねて、戻る。

カラカラと音を立てて、二年三組の教室の扉を開いて飛び出す。そうして、迷うことなく近くの階段を急ぎ足で登った。感情が高ぶっているせいか、体が軽く感じる。転げてしまうのではないかと思いながら、かと言ってスピードを緩めることなく、何段と続く階段を二階から最上階の四階へと駆け上がった。

四階の左横には、ある一つの部屋がある。私は走った後の疲れきった脚で歩みを進め、その部屋の前で立ち止まった。上がった息と風で絡まった長い髪を整えると、”図書室”と札の掲げられた引き戸を両手で滑らせた。


中に入ると、図書室独特の紙の匂いが鼻孔を刺激する。部屋一帯に充満したこの匂いは本好きには堪らないもので、いつもながら私の胸を心地よく満たす。


「こんにちは柏木(かしわぎ)さん。この前取り寄せ希望をしてた本が届いてるよ」


入口のすぐ左横にある受付カウンターで、ここの図書室の司書である倉本翔(くらもと しょう)先生がにっこりと柔らかい笑顔で私を迎えた。


相変わらず綺麗な人だな、と先生を見て改めて思う。
年齢は二十代前半。整った顔立ち、見るだけでわかるさらさらな黒髪と男性の割には色白い肌。女の私から見ても羨ましすぎるほどに、先生は美しかった。
その見た目のおかげからか、時折先生に恋をした女生徒が図書室に押しかけてくることがある。


「先生、その本今日借りていってもいいですか?待ちきれなくて」


そう言うと、先生はあからさまに表情を明るくして「是非」と一度カウンターの下に体を引っ込める。再び出てくると私が読みたがっていた本を机上に置いた。

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