「先生、愛してる」

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就職先に、僕は自身の通っていた青華高校の司書を選んだ。面接の際に担当者は、僕が過去に木原紗和と関わりが深かった生徒だということを知ると、同情からから思いのほかあっさりと合格させてくれた。


司書を選んだのは、元々本が好きだったからという理由と、先生を絶望の淵に追いやった教師らと出来るだけ関わりを持ちたくなかったからという理由にある。それでも青華高校へ来たのは、先生の影を追っていたいという気持ちの表れだった。


就職に合わせて、住処を先生の家へ移した。家賃を払ったり余計な家具を揃える必要がないという理由もあったが、何より、今は亡き彼女と共にいられるような気がしたのだ。


先生の部屋は、二階にある三つの部屋のうちの真ん中だった。そこだけは当時のまま保管することにして、残りの端の二つを客間と自室にすることにした。
一階については、自分が使いやすいようにある程度の配置変えはしたが、物が減ったり増えたりすることはなかった。
先生の家へ移る時に何よりも大変だったのは、十分に寂れた家をある程度元の姿に戻すことだ。掃除に花の世話、それらは僕に今まで感じたことのない疲労を与えたが、全て先生のためだと思うと、決して苦ではなかった。


それからしばらくすると、"司書"という立場にも慣れ、周りの人間ともそれなりの関係を築けるようになった。仲が良いと言える生徒や教師もできたが、それらのほとんどは女性だった。彼女たちにあるもののほとんどが下心だと気づくと、何度と落胆を繰り返した。


─────汚らわしい。


そんな思いだけが、ただひたすらに胸の内で渦巻くのだ。


けれどその反面、一人だけ変わった生徒がいた。長い髪に白色の肌を持つ彼女の名前は、柏木秋奈。青華高校の一年生だ。図書室の常連で、毎日のように本を読んでいる。今どき読書好きの子どもがいるものなのだなと、ひどく感心した。

それだけでなく、彼女はいつどんな場面でも一人きりだった。たまに話しかけてみても、対した返事は返ってこない。それどころか、驚くほど冷ややかな目を自分に向けてくるのだ。嫌われるようなことをしてしまっただろうか、考えてみても答えが見つかることは無かった。


秋奈が常に一人であることには、すぐに察しがついた。


彼女は、いじめられていた。


いじめられる場所は、図書室の窓から容易に覗ける体育館裏で、かつ放課後のようだった。毎日というわけでもないらしく、隔日のため、僕はその度に窓から彼女のことを見ていた。まだ一年生という夢を馳せる時期にいじめなど、あまりにも不憫じゃないかと思いもしたが、僕は決して止めはしなかった。

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