「先生、愛してる」
日を重ねながら、秋奈を救い出す方法、それを考えていたが、そのうち僕が手を貸してやるまでもないという結論に思い至った。
彼女のいじめは、意外にも多くの生徒に認知されているらしい。以前廊下ですれ違った生徒が、ひそひそと話し合っているのを聞き、僕はその事実に直面した。
皆、今か今かと学校に報告するタイミングと方法を模索していることだろう。ならば、僕が干渉するまでもなく、この問題はすぐに片がつく。
今自分に出来ることは、この状況を踏まえた上で秋奈とどうやって接触を図るかを考えることだった。
そんなある日、僕に思わぬ転機が巡ってきた。いつものように図書室の窓から秋奈の様子を伺っていると、秋奈が水バケツに顔を沈められている最中にもがいてその場から逃げ出したのだ。こんなことは初めてだった。秋奈はいつでも、行為が収まるまで痛め続けられ、その後に去る。いじめていた側もだからこそ油断していたのか、あっさりと秋奈を手放してしまった。
それにしても、水責めなど危うく殺人に成りかねない。逃げ出す彼女の気持ちもわからないでもなかった。しかし、そうして不憫に思う反面、僕は秋奈が初めて見せた"生"の意思にひどく胸を高鳴らせていた。
────今だ。
気がつけば、図書室を飛び出していた。
今の秋奈と真っ先に出会うのは、他の教師でも遠くから監視していた岸田でもなく、自分でなければならない。
もう二度とこんな機会は巡ってこないかもしれない。生きたいと希望する秋奈の願いは、自分が叶えてやる。彼女に漬け込むのなら、この瞬間を決して逃してしまうわけにはいかなかった。
勢いよく階段を駆け下り、外へ出る。
─────どこにいる。
そう辺りを見回したとき、自身の胸元に強い衝撃が走った。どん、と音を立てて翔を含めた二人の人間がぶつかり合う。目の前でぐらついた女生徒の姿を見て、思わずほくそ笑んだ。