例えば君に恋しても


「・・・どうして?」

問いかける私をちらりと横目で見た新一さんは小さな声で「怒ってるんだよ?」と呟いた。


そんなこと、わざわざ言われなくても分かってる。


だから

俯いて彼から視線を逸らした。


私が聞きたいのは、怒ってるくせに、なんで、新一さんにとって、なんでもない私なんかを、また、助けに来てくれたのかってことなんだ。



「腕、大丈夫?」

「痛いけど、動かそうと思えば動くから大丈夫。・・・」

「なら、動かしたらダメだね。」

「・・・うん。」


ちらりと屋敷を見たけれど仁が追ってくる様子はない。


「ねえ、私に優しくしてくれるのは、私を利用したいから。なんでしょ?」


そんな風に聞いて

はいそうだよ。なんて素直に答える奴なんかいないと分かってる。

それでも止められなかった。

気付けば、私たちは邦弘の花畑の中にいる。

昼間、灼熱の太陽のしたで生き生きと咲いていた向日葵も、月明かりの下では眠っているように静寂さを纏っている。


すると、私をその腕から下ろした新一さんは、少しだけ怒った口調で呟いた。


「君の事が放っておけないから優しくしてしまう。

理由はそれだけだ!!」


私を映した真っ直ぐなその瞳に

思わず息を飲んだ。

微かな風に揺られてざわつく向日葵も、驚いて私達を見ているようだった。


だけどそんな言葉、信じるわけない。


だって

きっと

あなたも私を裏切るから。


それでも

ずっとずっと

欲しかった言葉。


だからこの人だけは特に信じられないんだ。


悲しくて

嬉しくて

何も言えない私をまた抱きかかえて歩き出す。

花畑から抜け出たそこには、一台の車と峰岸さんの姿があった。




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