うつりというもの
第7章
武蔵野市井の頭公園


遥香達が山科家にいた日の夜、22時頃だった。

村井優香は会社帰りに井の頭公園の中を通っていた。

28才の女性が独りで通るには遅い時間だが、人通りがまるでない訳でもなく、日頃そんなに心配はしていなかった。

ただ、今日は少し後悔していた。

公園に入って少しして、後ろから誰かの視線をずっと感じていた。

前から来る人とすれ違う時にさりげなく振り返ったりしながら確認しても、付いてくる人影はなかった。

優香はその視線に気付かれない程度に早足で歩いて、帰りを急いだ。


優香が感じたその視線の主は、確かに彼女の後ろにいた。

でも、その視線は、少し高い位置から彼女を見下ろしていた。

その視線の主は、彼女に引き寄せられていた。

そういうものだった。

自分で選んでいるわけではない。

ただ、引き寄せられる。

それだけだった。

その引き寄せる力に素直に従い、彼女の頭を目指した。

ぶつかる前に、彼女の首は下に落ちていた。

立ったままの彼女の首に引き寄せられて、そして一つになった。

すると、意識はその身体中に広がった。

ずっと足りなかったものが、今、満たされた。

思わず、笑みが零れる。

数歩、歩こうとしたが、もう、それで良かった。

すぐ横の木にゆっくりもたれると、そのまま座り込んだ。

そして、想いは光に包まれていった。
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