God bless you!~第3話「その価値、1386円なり」
浅枝はどっちにも頷き、どっちにも首を傾げた。
これまで双浜高は、バスケ部と吹奏楽部が入れ替わり立ち代り生徒会を仕切って幅をきかせてきた。
そんな交互・独裁の歴史がある。
バスケ部は県大会で優勝からインターハイと名を馳せ、学校の名誉に貢献してきた。その一方、吹奏楽部は年間を通してコンサートやイベントなどで収益をあげ、それが生徒会費をグンと跳ね上げる。
それぞれ自然と物言いも多くなるのだ。
「あの……そんな話を俺にされても。聞くのは2度目ですが」
「まぁ、世間話だから」
松下先輩は穏やかに笑っている。
今の会長、永田さんはバスケ部。幸い、権力を振りかざすという暴挙には至っていない。強く出ないバスケ部をいい事に、今度は吹奏楽部が言いたい放題で出しゃばる。そんならバスケ部だって黙ってはいられないと、会長を通じて生徒会を操ったり操られたり。
「あの……てゆうか、そんな話を俺にされても。それを聞くのも2度目で」
「だから、単なる世間話だから」
つまり、そんなバカバカしい争いが、毎年人を変えネタを変え、繰り返されてきたという事で、松下先輩たちは、まさに今そんな辛い立場に立っているんだと、愚痴を言いたいらしい。(ですよね?)
我がバレー部、サッカー部、野球部は、人数とか人気とか品行とか、そんな理由で第3極とも言える勢力を誇る。だからというか、おまえらは一体どっち側なんだ?と突っ込まれ、絶えず揺さぶりを掛けられた。
「バレー部は当然バスケ側だろ。運動系なんだから」とか言われても、そう簡単に割り切れない事情がある。体育館の取り合い、普段からのバスケ部員の横柄な振る舞い、それで当然のようにバスケ側に加勢しろと言われても納得いかない。
「僕らは、一体いつまで奴隷扱いを強いられるのかな」
そこに、「ちーっす!サッカーだけど」と、逞しく日焼けしたサッカー部のキャプテンがやってきた。
「ボール避けのフェンス買いたいんだけどさ。お金……」
だーかーらー、と言いたいのを、ここは我慢した。いくら何でも相手は3年。
「これって、テニスと陸上も絡んでるから、こないだの予算から出し合って決めていいかな」
「そういう事ならOK」と、松下先輩は快諾した。
「割り当てとか、こっちで話し合って、勝手にやっちゃっていいの?」
「それも大歓迎。購入金額と報告だけあげて」
いつも思うのだが、こういう場合、どう答えるんだろう?と、自分も一緒になって考える事がある。
松下先輩の対応と合っていれば間違いないと安心するし、違っていれば、そこにどういう理由があるのかと知りたくなる。これはまるで生徒会・実例問題集。
「ここの新しい1年、なんつったっけ?」
唐突に訊かれた。普通に考えて名前だろう。「浅枝アユミさん」と、松下先輩が答えた。
「どっか部活やってるっけ?」
「帰宅部だよ」
「どこにも入んないの?」
「さぁ。聞かないけどな」
「ふーん」と、それほど聞きたい事でもなかったような反応をして、「じゃ」と、生徒会室を出て行った。
松下先輩とまた2人きりになる。不穏な沈黙が流れた。
「浅枝をマネージャーに狙って……とは見えませんでしたけど」
「クラリネットの彼女から、さっそく突かれたかな」
どういう事かと尋ねると、「吹奏楽から1年生を推薦されたんだけど、それを蹴って浅枝さんを書記に決めたから、それを気にしてるんだと思う」
それは知らなかった。結構、驚く。
そして、それに納得できない吹奏楽部・部長は、「浅枝って子がバスケ部でないなら、先輩、きょうだい、あるいは彼氏。どこかで今の執行部と繋がってるに違いない。だからあの1年は生徒会に入れたんだ」と、吹聴しているらしい。どこか太いパイプで繋がっている筈だと今も疑って、時に部員を総動員して、理由を追及してくる……さっきのキャプテンも、恐らくクラリネット彼女に頼まれての事と、松下先輩は推測して。
「浅枝さんが入ったのは正真正銘、先生からの推薦。それだけは、沢村にも言っとくから」
最初から、そこは疑っていなかった。言うなれば、
「どこの団体からも一切干渉を受けない、そんな唯一の存在ですね」
松下先輩は満足そうに頷いて、「来期はごっそりそうなるといいんだけどな」
バスケ部の生徒会長、永田さんがどう出るか。全てはそこに掛っているという事だろう。
松下先輩は何かを探し始めた。その何かが見つからないようで、「何ですか?」と訊くと、「この辺に、領収書のストック無かったっけ?」と来た。俺も心当たりを探してみたけれど、見つからない。「んじゃ、悪いけど買っといて。あと切手とかも」と、その他、色々な雑用を言い渡される。
双浜生徒会。その実態は、大人世界の会社にも負けないレベルの雑用処理場である。
松下先輩は、「今日は部長に呼ばれてるから。最初だけ出てくるよ」と、パッと上だけジャージに着替えて、部活に向かって行った。
俺は、今日もまた浅枝と雑用か。
そこへ、松下先輩と入れ違いに、生徒会会計、2年4組の阿木キヨリが浅枝を伴って、やってくる。
突然、ぬぅーっと影が伸びたと思ったら……阿木の背後に、誰か居る!
「アギング♪」
浅枝が「ギャッ!」と声を上げて飛び上がった。
毛玉のチビ。右川が阿木の両肩に手を乗せて、その背中に貼りついている。貼りつかれたアギング……じゃなくて、阿木がやけに落ち着いているのが不可解と言えば不可解だ。
「紛らわしい事すんな。何の用だよ」
「オヤジ、じゃなかった、ヨウジに用事♪じゃなかった、アギングに用事があるって呼ばれたの♪」
ウザい。永田どころじゃない。どこが本題なのか全く要領を得ない。
朝礼で見覚えはあったかもしれないが、間近で右川のヘラヘラに遭遇して、明らかに混乱、事態が飲み込めないのだろう、浅枝はその馴れ馴れしい態度に動揺を隠せないでいた。
「阿木先輩の……お友達ですか?」
疑いながら、気を使った物の言い方をする。
「いえ。中学が一緒なだけで」
「そう、おともだち♪」
「これでも2年生よ。右川カズミさん」
「こちらアギングです♪」と、右川は、馴れ馴れしく、阿木の右腕を胸に抱く。2人の言う事に、浅枝はどっちにも頷き、どっちにも首を傾げた。ますます混乱してきたようだ。女子同志で仲良く腕を組む姿はよく見かけるが、この2人に限って言えば、まるでヤンキーにタカられている優等生の図である。
「で、何かなぁ。ぶちょ♪」
阿木キヨリは2年生でありながら、今期、茶道部の部長となった。ここには今年、3年生が居ない。
「次回は右川さんと隅田さんの係。お菓子の手配、いつものようにお願いね」と、茶道部の財布から5000円札を出して、右川に手渡した。
「だったらこのお金は墨田さんに、是非!」
「隅田さんは1年生。係は初めてで分からない事もあると思うから、そこはよろしくね」
「えぇぇー、ぶちょ♪あったしも、よく分かんないですぅ~」
「領収書を忘れないで」
右川に取りつくシマを与えず、ブツンと言い放って、阿木は次の作業に取り掛かった。
お見事。
「さっき永田に喧嘩売られちゃってさ。彼女できたって本当なの?妄想2次元じゃなくて?」
こっちも取り付くシマを与えてたまるかと無視していたら、「1年で久木さんって言うんですけど、その子の方からコクったらしいです」と、浅枝が親切に教えてしまった。
「どういう子?それって人類?」
浅枝に問い詰めながら、右川はリュックを地べたに置いて、空いていた椅子に腰かける。居座ってしまった。浅枝が気を利かせてテーブルにお菓子を並べると、当たり前のように右川が1番にそれをツマむ。
結果的に、エサまで与えてしまったか。
< 7 / 24 >

この作品をシェア

pagetop