甘え下手の『・・・』
一瞬目を大きく開いたけどすぐにいつもの表情に戻った筧くん。

何も言わない筧くんに、何も言えない私。

「やだ。ちょっと何なんですかぁ」

今井さんだけが楽しそうな声をだしている。

あぁ、そうゆうことだったんだ。

さっき私を呼びにきたあの子は今井さんに頼まれたんだなと理解した。今井さんは私にこの状況を見せたかったんだ。

バカバカしい、付き合っていられない。
ここは職場だ。仕事をするところだ。
仕事だと思ったから、ここにきたんだ。
こんなシーンを見るためなんかじゃない。

「…失礼しました」

頭を下げ私は向きを変える。

こんなところ1分1秒でも居たくない。

「相沢」

足を動きだしたところで筧くんの声が私を止める。

「相沢、オレの言ってきたこと、忘れるな」

筧くんの冷静な声を背中できく。こんな時でも慌てたりしないなんてどこまでも筧くんだ。

私は小さくうなづくと振り返らずに歩きだした。


覚えてるよ。忘れてないよ。

だけどね、自信がないんです。
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