光の国へ

 順信は本尊の前に正座した。
 仏前で心から頭を下げるようになったのは、最近だ。
 僧侶ではない何者かになろうと、という夢が消えてからだ。
 最も心血を注いだ創作は、新人賞予選通過と新聞の同人誌評に取り上げられたのが最高だ。自力無効を実感した。
 本尊に向かって合掌した。
 ふと、あの四文字がうかんだ。
 還相回向。
 立ち上がり、歩き回った。
 浄土とは?
 浄土はあの世ではないのか?
 歩き続け、自問自答をしたあげく、経卓の上の親鸞聖人の偈文を開いた。
 浄土は無量光明土と記されている。
 光の国だ。光の国から還るのだ。
 弥陀の浄土に至る人、利益衆生きわもなし。
 改めて、合掌礼拝した。
 吉君のことを考えるのも、光の国からのはたらきかけかも知れない。いつもの女医さん、腹具合が悪い、と言ったら、ベッドに寝かされ掌で押された。しこりはないね、と微笑んだ顔。観音様だ。
 ほのかな光が満ちてきた。
 順信は立ち上がり、腕を組んで歩き回った。
 還相回向。
 この世ではなく、あの世でもない、光の国から還るのだ。

 自室に戻り、睡眠薬を呑んで横になった。
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