【完】螺旋のように想いを告げて


 俺の頭の中では咲良を元気づける言葉が回っていた。
 せっかくの夏休みに遊べないなんて、運が悪すぎるだろうと楽観的な考えしかなかった。



 しかし――――。
 一ノ瀬咲良は俺の到着を待たず、遠い世界へ旅立ってしまった。




『咲良ちゃん、亡くな……っ』




 先に来ていた母さんは静かな廊下の端で泣き崩れた。俺はどんな顔をしていたんだろう。



 よくわからないけど、上手い表現があるとすれば空っぽだ。そう、空っぽになってしまったんだ。



 事故が酷かったせいで、両親以外は咲良に会えなかった。だから余計に実感がない。



 あのドアの向こうで咲良が笑っているんじゃないかって、そんなことを考えてしまう。



 事故原因はまだ調査中だが、どうやら車両同士の事故に巻き込まれたらしい。



 1台が歩道に乗り上げて、咲良の命を奪ったようだ。

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