溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~


「お前、それ今まで全部ひとりでやってたのか?」

「……そうだけど」

「無職の男は?」

「む、無職っていい方はアレだけど……彼は基本、家にいてもギター弄ってるか、スマホの作曲アプリ開いて何かの作業中か、って感じだったし……“ギタリストは指が命”って口癖のように言っていたから、頼みづらいのもあって」


説明している途中で、また甲斐に呆れられるんだろうと自分でもわかったので、後半はごにょごにょと小声になった。

どうせ、またバカな女とか思われているんだ。悔しいけどその通りだから、反論もないけどさ……。

卑屈になってうつむいていると、急に体が宙に浮いた。

膝裏と、背中に甲斐の腕が差し込まれて、お姫様抱っこ!?と思っている間に、ベッドの真ん中に優しく寝かされる。

真上には、私を見下ろす甲斐の瞳があって、またしても心臓が暴れ始める。

絡んだ視線に呆れや嘲笑の色はなく、その瞳はただ穏やかで、優しかった。


「ここでは、お前は何もしなくていい。ただ、俺に甘えてろ」


オトナの色気を感じさせる甘美な声が降り注ぎ、ドキン、と胸が鳴る。

で、でも甲斐のことだ。きっと、喜んでいい意味じゃない。

何もしなくていい、だなんてまるでお姫様扱いのように感じてしまうけど、どうせまた……。



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