Powder  Snow
2
声が聞きたい。
 抱きしめたい。
 傍にいたい。

 それはとても遠いこと。
 
 君には、届くことはない。



 帰ってすぐ、遠矢は美紀にメールを送った。お付き合いというものをしたのは、中学生以来なので、少し照れくさかった。今まで、どんな告白も断ってきたのは千秋を好きだったからだが、今回は少し勝手が違った。相手が、千秋を好きでも構わないと言ってきたのだ。
 多少の後ろめたさはあるが、千秋を好きだと知って付き合っているこの状況は、遠矢にとって悪いものではなかった。
 美紀は千秋ほどの美貌は持ち合わせていなかったが、目は大きめだし、顔も整っている。美少女と形容するまではいかないが、男子の間で話題になったことはあった。
 そんな美紀と、全てを承知で親密になることは、健康な男子高生ならラッキーと囁きたくもなるだろう。
 美紀に『今、帰った。そっちはまだいるのか』と、ありきたりなメールを送る。するとすぐに携帯の着信音が鳴った。
 『あたしも今帰ってるところ。あとちょっとで家だよ』に、ニコっとした絵文字がついていた。遠矢は『気をつけて帰れよ』と送ると、返事はまたすぐに返ってきた。
 美紀と接していくうちに、少しずつ記憶が鮮明になってきた。
 美紀とは特に何かを話した覚えはなかったが、何度か席が近くになった。班が一緒だったこともあって、当番など一緒にやったことがあった。
 責任感があって、真面目で、少し気が強かったように思う。遠矢は、昔の美紀を思い出し、手の中の携帯を操作した。
 メールは何十回も続き、その夜は眠りにつくまで終わらなかった。
 次の日、部活の練習をみる約束をしている遠矢は『明日早いから』と、メールを終わらせた。
 最後のメールは『近いうち、どこか行こうね』というデートの話だった。
 ここへきて、自分が美紀と付き合っていることを自覚した。
 付き合っているのだから、ふたりで出かけるのも当然といえば当然だった。ただ、急に義務感のようなものが働いて、息苦しさを感じた。
 このまま、美紀を好きではないのに付き合ってもいいものかと、遠矢は思った。
 遠矢は胸の中にモヤのようなものを抱きながら、布団をかぶった。
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