もう泣いてもいいよね
車が寂れた屋敷の前で停まった。

タケルの実家だ。

人が住まなくなってかなり経っていて、だいぶ痛んでいるようだ。

タケルたちが引っ越して既に13年ということか。

昔はそれなりに大きかったようだ。

この屋敷の手前50mくらいのところに門があったらしき跡もある。

そこから敷地だったと言うことだ。

屋敷の前のこの広い草地もよく見ると、建物があった跡がある。

私がタケルとよく遊んだ頃は既に今見ているとおりだった。



「タケル、着いたよ」

私はまだ横で気を失っているタケルを起こした。

「起きて」


「え?あ、着いたのか」

「いつまで寝てるのよ」

「おい、おれは寝てたんじゃねえよ。気を失ってたんだ!」

「はいはい」

同じようなことを言うタケルをほっておいて、私は車を降りた。

私は大きく両手を挙げて、思いっきり深呼吸した。


空気がおいしい。

空が青い。

この季節は霞むことが多いはずなのに、こんなに青くていいのかな。

緑もくっきりとしている。

陽の光が暖かく、身体がふわふわとする感じ。

草の匂いに、鳥のさえずり。

時間の流れが都会と違う。

こんな気持ちよさをすっかり忘れていた。

「どうしたの?」

「こんなに気持ちいいのは本当に久しぶり」

「そうだね。あっちじゃ、こんな気持ち良さないよね」


しばらく香澄と二人でぽや~んと山並みを見ていた。


あれ?タケルは?

振り返ると、タケルがじっと家を見ていた。

「タケル」

そばに行くとタケルが泣いているに気が付いた。

「どうしたの…?」

「いや、何でもないよ」

タケルは、涙を服の袖で拭くと、顔を背けた。

それを見ていた香澄が私を呼んだ。

「皆美、中をきれいにしようよ」

香澄は玄関の鍵を開けた。

その姿に何か違和感を感じた。

「あ、うん。そうだね」

「水出るか見てきてくれる?私バケツとかぞうきんを用意するから」

「いいよ」

私は勝手知ったる台所の方に入っていった。
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