【完】こちら王宮学園ロイヤル部



「ルノは律儀だねえ」



「……俺のせい、ですからね。

ルアが部屋から出てこなくなったのは」



たとえそれが、俺を思ってくれたものだとしても。

他人が俺を介してルア自身を傷つけたのは事実だ。階段から突き落とされたあのときも、最終的に彼女に手を上げてしまったのは俺だけど、ルア自身は突き落とされて怪我をしてる。



「お礼を言ったら、

南々先輩に「どうして?」って言われました」



「……"どうして?"」



「はい。どうして、俺がお礼を言うんだって。

ルアが出てこなくなった理由には俺が関わってるので、それを伝えたら今度は怒られました」



その理由に見当がつくらしい椛先輩は、「ああ、ねえ」と納得したように笑ってる。

C棟は3階建てだけど、そこから屋上に出るまでの階段が長く造ってある。そのため、C棟は校内で一番高い建物だ。




本当に城みたいに、学園内を見下ろせる場所。

その、普通ではありえない景色を見下ろしながら彼女が告げた言葉を、一字一句覚えてる。



「『薔薇に棘があるのは、綺麗な自分自身を守るためだって言うじゃない?

だけど……ただ無条件に綺麗なものも、もちろんあって』」



綺麗なものに触れるのにリスクを負う必要はない。

C棟から見下ろせるその景色だって、綺麗だと思える。それこそが無条件に綺麗なもので、何かリスクを負って手に入れたものじゃない。



「『結局は、その人自身の感性なのよ。

だからルノが、自分のせいでルアを巻き込んだと思うのも、ただの自分自身の感性』」



もしかしたら南々先輩にとっては、なんでもないような発言だったのかもしれない。

だけど俺の印象には、深く残った。



「『まわりがあなたたちに、第一王子だとか第二王子だとか、そういう呼び名をつけたのもその人たちの感性。

だけどそう割り切れるほどすべての人が大人なわけじゃないから。……あなたは優しいのね』」



南々先輩が安全かどうかはわからない。

それでも、この人が俺らの"姫"で、よかったと。



< 160 / 655 >

この作品をシェア

pagetop