十五の行方
「おーっす。……あれ、まだ来てないのか」


その日、いつもなら俺より早く来る彼女が、まだ来ていなかった。


……まあ、そんなこともあるだろ。


もしかして、毎日勉強して疲れてんのかな。たまにはアイスでも奢ってやるかなあ。


彼女から提案してくるし、俺が手を抜くと怒るだろうし、真ん中で二つにぱきんと割るアイスを奢ってもらうのは、いつも俺だ。


いや、だって条件が悪い。


得意科目の人に不得意科目の人が挑んでも、あまり勝ち目がないのは明白。


ただ、それじゃあまりに申し訳ないというか、俺ばかり得しているというか、ちょっと不公平なので、アイスの代わりに飲み物を奢ってはいる。


……よし、今日は特別にアイスを奢ってやろう。そうしよう。


はじめはそんなふうに無邪気に、きっと少し遅れて来るのだろうと気楽に思っていた。


でも、何度職員室に涼みに行っても、補講の時間が終わっても、半分に分けるはずのアイスを二つとも食べてしまっても、なぜか彼女は来なかった。


はかどる勉強が無性に虚しい。


……なんで、なんで来ないんだよ。なんで。


「先生、一緒に補講してる人が来てないんですけど……」


もしかしたら、もしかしたらと待ち続けたけど、全然来ない。


さすがにおかしい、と諦めてようやく聞きに行ったのは、夕方になってからだった。


「あれ、聞いてない? 彼女、引っ越したんだよ」

「え」


——中学三年、十五歳の夏。

補講の最終日。


たくさんの十五を置いて、彼女はいなくなった。
< 11 / 15 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop