不埒な専務はおねだーりん

ひとりっ子の篤典さんにとって私は目に入れても痛くない可愛い妹のような、可愛がってしかるべき存在なのである。

それは大人になった今でも何ひとつ変わらないらしい。

小さい頃はそれこそヒヨコのようによちよちとお兄ちゃんと篤典さんのあとをついていったものだ。

転んでもめげずに後を追いかける様が、また彼の庇護欲を掻き立てる結果になったらしい。

“わたしあーくんのお嫁さんになるの!!”

篤典さんのことを舌足らずに“あーくん”と呼び、お嫁さん宣言をしたのはいつだったかな。

……無知とは本当に恐ろしいものよ。

夢見る少女の頃をとっくの昔に卒業した今となっては、口にするのも憚られる。

(ちゃんと分かっているんだけどね……)

扱いとしてはペットと同じなのだと心得ていても、こうして不用意に篤典さんに触れられているとついドキドキしてしまう。

……初恋はまだ続いているのかもしれない。

「これからよろしくね!!かずさ!!」

「はい、専務」

何はともあれ。

今日から専務の秘書として精一杯働きたいと思います!!

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