不埒な専務はおねだーりん

(なんで、そんなに優しいんですか?)

聞くならこのタイミングしかないと覚悟を決めて、ずっと気になっていた篤典さんの本心を尋ねる。

「篤典さんは私のどこを好きになったんですか?」

好いてくれると言ってくれたが、それはなぜなのか?

今だからこそ……はっきりと知りたかった。

篤典さんは小さく微笑むと、ぽつりぽつりと静かに語り出したのだった。

「かずさは東雲さんを覚えているかな?」

「はい……」

東雲さんは宇田川家の元お抱えパティシエである。

宇田川家を1年前に退職した後、念願だった自分の店をオープンしたと聞いて、お祝いのお花を贈ったのはまだ記憶に新しい。

開店資金の一部は長年の献身的な勤務に感謝して篤典さんが負担したという。

「僕は昔から彼の作ってくれるクッキーが大好きでね。よくせがんでは作ってもらったものさ」

え……と……。

私の好きなところを聞いたはずなのに、なぜクッキーの話になるのか皆目見当もつかない。

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