最後の恋のお相手は
フッと目を覚ました。ベッドには、私ひとり。隣のシーツは熱をなくしていた。

「雄洋さん……」

身体を起こして小さくつぶやくと、ふたりの関係に終わりを感じた。もう、名前で呼ぶことはできない。

慌てて服を着ると、シーツを整えて、ベッドルームを後にした。キッチンからは、香り立つ、コーヒーの香り。

「おはようございます」

「寝ぼけているの? まだ夜やで?」

日向社長が白い歯を見せて笑った。そこにいたのは、いつもの明るい日向社長だった。

「気持ち良さそうに寝てたから、よう起こさんかったわ」

そう言うと、ソファに座るよう促した。会釈をしてソファに座ると、コーヒーを出された。

「良かったらどうぞ、北方さん」

「ありがとうございます。いただきます」

コーヒーを口にした瞬間、ふたりの関係は、社長とただのアルバイト従業員の関係に戻った。

短い恋、それでも幸せだった。

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