臆病者で何が悪い!

「――それに。まあ、周囲の人にはどう思われてもいいっていう気もする」

「え……?」

私の言葉に、生田が視線をこちらに向けた。

「どうせ、田崎さんにはばれてるし? 他の人にもばれたところで、私たちが普通にしていればそれでいいような気もするし」

「……そっか。おまえが、それでいいなら、俺はいいんだ」

「うん」

生田が少し嬉しそうな表情をした気がするけど、それは私の気のせいだろうか?

大丈夫――。田崎さんに振り回されたりしないから。

結局、二人で一緒に職場まで来た。それでも、誰も特に何の反応も示すことはない。ただ一人を除いて――。田崎さんの視線が意味ありげに私たちに向けられた。でも、だからと言って何かを言うわけでもない。さすがに、ここでそんなことをするつもりはないらしい。生田が、私にただ視線だけを合わせた。それはまるで、”いつも傍にいるから”って言ってくれたみたいで。私は小さく頷いた。

そして、自分の席へと着いた。本当は視線を合わせるのも嫌だ。でも、ここは公の場。プライベートを持ち込む場所じゃない。心を無にして、隣に座る田崎さんに挨拶をした。

「おはようございます」

「おはよう」

田崎さんもそれくらいのことは心得ているのか、あまり私と目を合わせようとしなかった。心の底から、田崎さんの考えていることが理解できない。この数日、いくら考えても分からないままだ。どう自惚れた思考回路を取ったとしても、私のことを本当に好きだなんて発想にはなれなかった。このまま全部なかったことにしてしまいたい。これ以上、生田に嫌な思いをさせたくない。そのために自分が取るべき行動は――。ただそれだけを考えていた。

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