蜜月なカノジョ(番外編追加)


「おはようございます。今日から新しいスタッフが入りますのでよろしくお願いします」

朝の顔合わせで店長の葵さんが新人スタッフの紹介を始めた。
そっか、4月だもんね。新入社員や新しいバイトが入る時期なんだ。
このお店で働くのは競争率が激しいと専らの噂だから、きっと選りすぐりの人が来たんだろうなぁなんてことをぼんやり考えながら新しいスタッフの自己紹介を眺めていた。

「バリスタとしてお世話になる小笠原翔太です。よろしくお願いします」

その時ふと、どこかで聞き覚えのある名前にピクッと体が反応した。


小笠原……翔太…?

………まさか。まさか、ね…


じわりと背中に嫌な汗を滲ませながら、恐る恐る前に立つスタッフの後ろから顔を覗かせてみると___

「 !! 」

ちらっとその姿が見えた瞬間、バチッ!!と思いっきり視線が交差した。
慌てて目を逸らしてスタッフの背中に隠れるように身を潜める。
ドッドッドッドッと全身が早鐘を打っていて、手足は小刻みに震え始めた。

…だめ、だめ…!
今は仕事中なんだから。しっかりしなきゃ…!

ギュウッと目を閉じて何度も深呼吸を繰り返しながら、必死に平常心を取り戻すために格闘し続ける。
自分を落ち着かせることに必死で、それ以降のスタッフ紹介なんて少しも頭に入ってくることはなかった。

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