蜜月なカノジョ(番外編追加)

そこまで言うと、ナオさんの顔がくしゃくしゃに歪んだ。綺麗なその顔が台無しってくらいに。そうして再び私の方へ手を伸ばして、でもやっぱり途中でその手を止めて。宙に浮いたまま何度もそれを繰り返した後、

「………抱きしめても、いい…?」

本当に弱々しく、不安そうに私を見上げながらそう口にした。
顔を歪めたのは今度は私の番で。何かを言わなきゃと思うけれど嗚咽が止まらなくて。情けないほどに何一つ言葉にできない。
ただコクンと頷くのが精一杯で。

「………っ杏……杏、杏っ…!」

そっと、壊れ物に触れるように優しく優しく私を包み込んだ腕は、すぐにすさまじい力へと変わった。骨が軋むんじゃないかって思えるほど苦しくて。それなのにその手ははっきりとわかるほどに震えていて。
それに負けないくらい私も震えていて、もうこの震えがどっちのものかもわからない。


「杏、杏っ…!」


それでもはっきりわかったことは、痛いほど私を締め付けるこの手が嫌いじゃないということ。
…そしてこの腕の中が私にとって世界一安心できる場所なんだということ。

ただそれだけだった_____

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