HARUKA~恋~
「はい、遥奏」

「おっ、ありがとう!なんかラッピングからして本命感ある!!めっちゃ嬉しい!!」


遥奏は早速リボンをほどいて箱を開けると、真っ先にハート型のチョコを手に取り、口に放り込んだ。

たちまち遥奏の顔の筋肉が弛緩する。


「ほっぺたが落ちるって、まさにこういうこと!ハル、ホントありがとう!!」


飛び跳ねたくなるくらい嬉しかった。
不穏な空気の中作ったから、余計な気持ちが混ざって不味くなってないかなと心配していたから、無事美味しいものを届けられて感無量だ。


「ハルも自分が作ったヤツ食べなよ。…ほら」


遥奏に無理やり押し込まれ、私は人生初、自作のチョコを口にした。

一瞬でとろけて、口の中にほのかな甘さと微かな苦みが残った。




おいしかった。
まずまず…





でも舌はまだ物足りなさを感じていた。

私は残念ながらこれより数倍も数十倍も美味しいものを知っていた。
非常に悔しいが、私はあの味にもう1度出会いたくなった。

アイツの憎たらしい顔がぱっと思い浮かんでしまって、全身全霊で振り払う。


私の異変を察した遥奏が怪訝そうな顔で私を見る。


「大丈夫、ハル?」

「あっ、うん。我ながら美味しすぎてビックリしちゃった」

「ハル、自画自賛するタイプ?意外過ぎ。でも、可愛い」


遥奏は私を褒めてくれる。
でもいつも彼が思っているより簡単に言葉になっているらしい。
口から滑り落ちるように言葉が出るということだ。

思いがけないことを言ってしまった時、遥奏はまるでビーバーのように前歯を唇に乗せて、笑うのを必死にこらえている。






私には、遥奏がいる。
だから、何があっても、絶対、大丈夫だ。





私はそう信じるしかなかった。



「お前ら、何サボってんだよ!!早く練習始めるぞ!!」

 
私と遥奏の間に割って入って来た宙太くんがギロリと睨みつけて来た。

私達はチョコの余韻に浸る暇もなく、しぶしぶ体育館へ向かった。





夕日は思ったより上にいた。
まだお休みする時間じゃないらしい。

春が近づいて来た証拠だ。

私の1番大切だった人が居なくなってから、9度目の春がやって来ようとしていた。









午後5時10分23秒。

チョコは私に罠を仕掛けていた。
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