Honey ―イジワル男子の甘い求愛―
「好きになったところをね、ひとつひとつ好きじゃなくなれれば、宮地自身のことも好きじゃなくなるかなって思って、ずっとどこに惹かれたのかを思い出してたんだけど……どうしてもうまくいかなくて」
自嘲するように笑ってから、カップに手を伸ばし紅茶を飲み……小さく息をついた。
よく頭をなでてくる、分厚くて大きな手。つかみどころがない性格。いつも浮かべている、からかっているような笑顔。
案外、周りに気を配っているところ。
好きじゃなくなろうとしても、なにひとつ消すことができなかった。
宮地をつくるもの全部が好きだなんて、乙女思考は私にはない。
それでも……ひどい部分を知っていたって、仕方ないヤツだなって呆れながらも憎めない。
それは、盲目的に全部が好きだって言い切ってしまうのと、危うさレベルでいえば変わらない気がした。
完全に惚れた欲目でしか宮地を見れなくなっている気がする。
「片想いって、呪縛っていうか……呪いの類な気がする」
思わずそうもらすと、菜穂は「それ、そんなようなこと、涼太も言ってた」と驚いたような声で言った。
「え」と顔を上げると、菜穂が言う。
「いつだったか、テレビ見てたら片想いをテーマにした恋愛映画のCMが流れてて、こういうの興味あるか聞いたら〝片想いなんて呪いみたいなモンだろ〟みたいなこと呟いててびっくりしたから覚えてる」
明るい表情で言う菜穂に、思わず顔をしかめてしまった。
だって……今の言い方だと、まるで涼太が片想いしているみたいだ。
片想いされることはあっても、することはなさそうなのに……と思い、聞き返そうとしたとき。
玄関がバタンと音を立てて閉まった。
「そこの眼鏡。適当なこと言ってんじゃねぇ」
不機嫌マックスの顔で玄関に立っていたのは、いつの間にか帰ってきていた涼太だった。