Honey ―イジワル男子の甘い求愛―


あの駅はアパートの最寄駅で、歩いて行った方向は涼太のアパート方面だったから、どこかからの帰りだったんだろう。

見かける前もずっとあの子と一緒だったのかとか、あのあと、部屋まで一緒に帰ったのかは知らないけれど。

カーブに差し掛かり揺れる中、涼太は少し黙ったあと「ふぅん」とだけ答えた。

その、明らかに足りていない答えを不満には思ったものの……私なんかに、女の子との付き合いに口出しして欲しくないだろうしな、とそれ以上の言及は止める。

涼太だって大人の男なんだからそういうことがあって当たり前だ。

誰とデートしようが付き合おうが自由だし、いちいち私に報告する必要なんてない。
こんな風にはぐらかすのだって涼太の自由だ。

それでもなんとなくスッキリしないまま流れていく外の景色を見ていると、しばらくしてから聞かれた。

「気になんの?」

車内は、ガタガタという走行音が響いているのに、涼太の声がはっきりと聞こえた。

チラッと見上げてみれば、涼太は真面目な顔をしてじっと私を見ていて……突然ぶつかった視線に、驚きから胸が跳ねてしまう。

ドア付近のポールを片手で掴んだまま、少し身体を屈めている涼太との距離が思った以上に近くて息を呑む。

「なに……近いよ」

最近、こういうことが多い気がする。
涼太に不意をつかれて、ドキッとしてしまうことが。

「俺のこと、気になってんの?」

逃がすつもりのないような瞳に捕らわれ戸惑っていると、再度聞かれ……おずおずと口を開いた。


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