それはちょっと
「ねえ、南くん」

部長は私の名前を呼ぶと、髪の毛に触れてきた。

それから私を見つめると、
「――僕のお嫁さんになってよ」
と、言った。

「お、お嫁さんですか…?」

呟くように聞き返した私に、
「うん、もう“彼女”じゃ我慢できないなって思った」

部長は言った。

我慢できないって、何がですか?

と言うか、お嫁さんって…それはもう、結婚しろって言うことですか?

「――そ、それはちょっと…ないんじゃないかと思います」

呟くように、私は言い返した。

「お、お先に失礼します…」

そう言って部長から離れると、逃げるように立ち去った。

お嫁さんって何よ、お嫁さんって!

先ほど言われたその言葉を頭から追い出すように、私は首を横に振った。
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