【完】☆真実の“愛”―君だけを―2


「ねぇ、千歳」


「ん?」


「時間ってさ、こんな風にあっという間に流れていくんだろうね……」


「急に、どうした」


急速な話題変換ぶりに、軽く驚く。


柚香は、クスリと笑って。


「早く、桜も目覚めて、みんなが笑える未来が来ると良いね」


話をした、あの日から。


ずっと、桜が目覚めるのを祈り続けている巫女達。


そんな彼女たちは、当主に狙われていて。


「柚香」


「ん?なにーっ、わっ……」


俺達が、守り抜かなければならない。


柚香を抱き寄せると、吃驚するぐらい、彼女の心臓は脈をうち始めた。


こちらを見上げる、愛した人の瞳。


思い出す。


(これが、人を愛すときの感情……)


何百年ぶりに、人を愛す。


“千羽千歳”としては、初めてのこと。


だから、“初恋”。


けれど、本当は何百年、何千年前から、愛してた。


自身の体に眠る、“朱鷺”が。


目の前にいる、”月島柚香”の体に眠る、“桜蘭”を。


「ど、どったの?千歳……」


「ううん。なんでもない」


巫女だ。


柚香も、巫女の生まれ変わり。


だから、命を狙われる。


「言えるときになったら、言うね」


いつ、命を落とすかわからない。


だから、伝えるのなら、どうかその後で。


当主が一番に狙う巫女。


そんなの、誰かは大体、わかる。


「……死んじゃ、ダメだよ?」


柚香でも、紗夜華でも、澪でもない。


身近である、女。


ただ、それが、いつ来るのか、わからない。


「死なないよ」


そう、死なない。


死んでたまるものか。


この恋情を伝えるためには、死ぬわけにはいかない。


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