偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「はぁ。情けない。あなたなんかに頼らなくても生きていけますってかっこよく言えたらなぁ」
貯金があと一桁多くあって、手に職でもあって、もうちょい美人でスタイル抜群で、実家も裕福なセレブだったら‥‥。
「ん?それ、もはや私じゃないじゃん」
現実逃避に気がついて、冷静なつっこみを入れてみたものの、進むべき道はさっぱり見えてこない。

だいたい光一さんもなにを考えているのかわからない。あんなに私のことを嫌っているのなら、なんで結婚したんだろうか。光一さんなら他にいくらでも気にいる女の子が見つかったはずだ。

「‥‥キスとか‥‥しないでよね」
小さく呟いた私の言葉は、誰に聞いてもらえることもなく消えていく。
結婚式ぶりのキス、馬鹿にするためだけのキス。そんなものに不覚にもドキドキしてしまった自分がなんだか可哀想だ。今だって、あの瞳に見つめられれば、抗うどころか身動きすらできなくなってしまう。初めて見る素のままの笑顔を、ほんの一瞬だけ、可愛いなんて思ってしまったこと。光一さんはきっと気づいてもいないだろう。

結局私は、行動だけじゃなく心までも、光一さんに囚われているのかもしれない。もしかしたら、付き合っていた頃よりずっと深く。彼に乱されて、揺さぶられて、それでも逃げ出せないでいる。





< 20 / 131 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop