偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
天国から地獄とはまさにこのこと。あまりの展開に、私はもうそれ以上言葉が出なかった。

たしかにね、こんな夢みたいな話あるのって自分でもちょっと疑ってはいた。
ブスではないと思うけど、飛び抜けた美女でもない。頭がいいわけでも、特別な才能があるわけでもない。二十九歳は受付嬢としては崖っぷち。同僚は私より若くて可愛い子ばかりだ。おそらく来年には総務課あたりに異動させられるはず。
エビが鯛を釣るどころか、メザシが本鮪を釣ったようなものだ。だけど、世の中ってやっぱり甘くない。シンデレラストーリーは現実にはおこりえない。

私が釣り上げた本鮪(光一さん)は腐りきっていた。どんな高級魚でも、腐った魚は食べられない!!
かくなるうえはキャッチ&リリースの精神で‥‥。

「り、離婚しましょ。いくらかっこよくても、高収入でも、あなたとはやっていけない」
私は力なく、そう訴えた。こんなにも弱りきっている私を、あろうことか彼は鼻で笑った。
「離婚ねぇ‥‥して大丈夫?新しい仕事、見つかるの? 寿退社って上司に言っちゃったんだろ? まぁ、頑張ってみたら」

そう言って彼は夫婦の寝室‥‥じゃなかった、彼ひとりの部屋へと入っていく。
パタンと扉の閉まる音がやけにはっきりと耳に響いた。

ーーく、腐ってる! 本当に人間として腐ってるわ。



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