偽装新婚~イジワル御曹司の偏愛からは逃げられない~
「白川さんっ」
ふいに名前を呼ばれ、振り返る。
「わ、松島さん。偶然ですね~」
営業職の光一さんと違い、松島さんは基本的に内勤だから、会社の外で顔を合わせるのはあまりないことだった。
「うん。珍しく外で打ち合わせがあったんだ。また社に戻らなきゃいけないんだけど、あんまり蒸し暑いからちょっと一服と思って」
松島さんはネクタイを緩めながら、微笑んだ。私もつられるように、笑みを返す。
「わかります。私も暑さにやられて、ふらふらと」
「ひとりなら、隣いい?」
私がうなずくと、彼はアイスティーをのせたトレーを置いた。

そんな私達の様子をガラス窓の向こう側から見ていた人がいるなんて、私はもちろん知る由もなかった。

他愛もない会社の噂話なんかを十分程度しただけで、松島さんはあわただしく会社に戻っていった。私はそれを見送ってから、自分も家路につくことにした。





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