恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


『だ……誰か……誰か、誰かーっ!!』


俺はただ、それだけを繰り返し叫ぶ。

その声に気づいてくれた通行人が救急車を呼んでくれて、俺達は病院へと運ばれた。

俺は雅臣が庇ってくれたおかげでかすり傷程度で済んだのだが、運転手は即死。

そして、雅臣は──。


『雅臣くんは、事故で頭部を激しく強打しています。その後遺症で一部の記憶を喪失していると思われます』


1週間後に目覚めた雅臣は、中学時代の記憶がごっそりと抜け落ちていた。



『俺を庇ったせいだ……』


あの時、雅臣は迷う事なく俺を突き飛ばした。

そのせいで雅臣は逃げられず、彼にとって一番大切な記憶を失った。


『相手は飲酒運転だったんだ、景臣のせいじゃない』


目覚めた雅臣は春を連れてくるように、ふわり笑う。

なんら変わりない、いつもの雅臣らしい笑顔だった。

でも俺は、そんな風に笑っていられる彼を前にして、自分の胸がズタボロに切り裂かれていくのを感じていた。


『命が助かっただけ、よかったと思わないと』


雅臣はそう言ったけれど違う、気づいていないんだ。

命よりもかけがえのない、なにより大切な彼女への恋心を失ってしまったという事に。


『違う……違うんだ、雅臣っ』


絶対に失ってはいけない記憶だったんだ。

俺は頭を振って、ベッドの上に腰掛けている雅臣の腕を掴む。


『雅臣、清奈って誰だかわかるか?』


俺は祈るような気持ちで尋ねた。

もしかしたらって、奇跡を信じてみたかったのかもしれない。

だけど、現実はそんなに甘くなかった。
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