恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。



「でも……雅臣として生きているうちに、本当に自分が望んでいる事とそうでない事の区別がつけられなくなっていって……」


親の望む人間になるために生きてきた私にも、痛いくらいに理解できる。

その弊害なのか、私は自分が何者なのか、何者になりたいのか、自分で望む事が難しいと感じていた。

命令通りに生きるのは、楽だ。

だって、言われた事をすればいいだけ、迷う事もない。

自分の人生に責任もなかった。

だから自分で夢を見つけ、未来に歩いて行ける人間って、すごい生き物なんだとしみじみ思ったくらいだ。


「自分が何を望んでいるのか、わからなくなってた」

「景臣先輩……」


誰かの人生を歩んでいるうちに、自分が何者なのかがわからなくなる。

そう、私と同じように景臣先輩も苦しんでいたんだ。

だとしたら、君くれた言葉はどれが本心で、どれが言わされたものだったのだろう。


『俺は清奈の居場所だからな』

この言葉も──。

『俺は清奈のために、ここにいるんだからな』

この言葉も──。

ぜんぶぜんぶ、罪悪感から出た言葉だったのだろうか。

そこに君の本心がひとつもなかったとしたら、やっぱり悲しくて胸が痛んだ。


「清奈……?」


言葉を失っていると、景臣先輩の視線を頬に感じた。

私は堪らず傘から飛び出して、雅臣先輩の前に立つ。


「景臣先輩の言葉全部が、雅臣先輩の代わりだから出た言葉なら……」


そんなのいらなかった。

ただ悲しくなるだけだから。

そんな想いに気づいたら、自分が傷つくだけなのに。

私は自分が思っている以上に、君を大切に思っていたらしい。


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