恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。

「古典研究部に入部しているっていうのに、何も知らないなんて呆れました?」


窓際に立つ私は、肩をすくめながら申し訳ない気持ちで尋ねる。

入部のときもそうだったけれど、私は古典研究部の部員なのに古典には一切興味が無い。

古典好きの彼からしたら、かなり失礼な話だ。


「忘れたのか? 俺は部員になってくれるなら、そのままの清奈でいいって言っただろ?」


雅臣先輩は笑顔を崩さないまま、そう言った。

彼の言葉にそういえばそうだったな、と思い出す。
あれは私がこの中学に入学して、1ヶ月が経った頃の話だ。


うちの学校は全員部活に入る決まりになっているのだが、私はこれといってやりたいことがなく、困っていた。

というのも、自分の意思というのが私にはよくわからない。

私の人生はいつも親の決めたレールの上にあり、自分で決めたことなど何ひとつなかったからだ。


『この大学の医学部は、お父さんが学んだ学校だから行きなさい』

『就職はお母さんのいる大学付属の病院になさい』


両親は共に医者で、それが当然であるかのように私にも医者になるための道しか用意されていない。

多忙で家にいることは少なく、普段はほったらかしのくせに、将来のことに関しては過干渉なほど口うるさい。

まだ中学生だっていうのに、もう大学や就職の話をされて鬱陶しかった。

だからなのか、私は何かに関心を向ける前に、どうせ親の許可が下りないだろう、と諦めてしまっている。

そうやって生きているうちに、本当に自分のやりたいことが何なのかがわからなくなっていた。

夢や未来に向ける情熱のようなモノをどこかに置いてきてしまったかのようで、毎日が空虚なのだ。


そして、加入届の締め切りが数日後に迫ってしまったある日。

私が入る部活を決めかねて、途方に暮れながら校内をさ彷徨い歩いていると、この古典研究部の部室の前ににたどり着いた。

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