紳士的?その言葉、似合いません!



もごもごしていれば仕方ないなぁというように微笑まれてなんだかわたしが悪いような気がしてくる。いや、側から見たらわたしのほうが悪いのかもしれないけど…



「まぁ貴女もご存知の通り、私にとって待つことは苦ではありませんから」



貴女の心が追いつくまでのんびり待ちますよ、と軽く口づけられた。ただ触れるだけのそれはなんだか少しだけ気恥ずかしい。


未だにこういう優しくてほんのり甘い穏やかな時間が慣れなくてそわそわするわたしに対して都築さんは余裕があるように見えてちょっとだけ悔しかった。


ふ、と目に入ったのは自分の左手。薬指に光るそれは婚姻届を提出した後に都築さんが買ってくれたもの。わたしと都築さんが夫婦だという目に見える証。


……もう、いいんじゃないかな。と、素直にそう思えた。


自分に自信がない。好きだと言われてもかなりしつこいと思うけど今も絶対的に信頼するのは難しい。でもこの人はそんなわたしも受け入れてくれた。


わたしの正直な気持ちはこの人が好きだと思ってる。ならもう、それを素直に出してもいいんじゃないだろうか。だってわたしはこの人と結婚した、妻なんだから。


これからも意地を張って素直になれないと思う。捻くれた考えで呆れられることだってあるだろう。でも今だけは、自分の気持ちに素直になりたい。



「………湊」



名前の後に耳元で囁いた言葉に湊は驚いた顔をした後に照れたように微笑んだ。




fin


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