紳士的?その言葉、似合いません!



「あ、俺結婚したから」


「………はい?」



仕事の合間に聞かされた発言が耳を通り抜け理解するまでに微妙な間が空いてしまった。


いけない、最近は忙しいとは思っていたがこんなに疲れているとは自覚していなかった。まさか幻聴が聞こえるなんて…



「すみません、今なんと言ったのかもう一度聞いてよろしいですか」


「結婚した」


「……」



どうやら疲れからくる幻聴ではなかったらしい。


長年の親友とも呼べる同士を見る。私が働く会社を率いる社長であり直属の上司であるこの男、郡山 鷹斗(こおりやま たかと)がキョトンとした顔で私を見ていた。なぜ貴方がそんな顔をするのか、私の方がそうしたい。


なぜいきなりそんなことになったのかは不明だが結婚したと言うからには相手は恐らく、いや絶対にあの人だろうというのは知っている。現に付き合うまで行くのに相談に乗っていたのは私だ。



「ちなみにいつのまに結婚したのです?」


「昨日」


「……昨日?」


「うん、昨日」


「………」



はっきり言おう。眩暈がした。


会社を率いる立場にいるのに勝手に結婚するとはどういうことなのか。付き合うのはまだいいだろう、が。結婚ともなると話が違う。


結婚したいならすればいい。それは個人の自由であって鷹斗にも言えることだ。しかし順番というものがあるだろう。


上に紹介もせず私にも報告せず下の者にも言わずもがなで勝手に結婚って……正直に言ってこれからのことに頭痛がした。



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