飛蝗者
懐かしいな、俺の世代だよ、と父は嬉々とした調子で言う。

私がまだ1度も口をきいていないことも気にすることなく、父は聞いてもいないことを話す。
宇多丸の映画評論が秀逸であるだとか、いとうせいこうは口ロロでの活動もいいが書籍での彼の方が好きであるだとか。

「なんだ、そっか。ラップ好きなのか」

ふと言われた言葉に私は顔を上げた。
私がそうだと気付いたのと同じように、父もかつてこの台詞を口にしたことを思い出したようだった。

飯、行くか。そう言った父は少しだけ気まずそうだった。
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