飛蝗者

o4

居酒屋の前で父とは別れた。
そのまま真っ直にアパートへと帰った。

普段は絶対にしないのに、その日はどうしても落ち着かず、そうしなければいけないと背中に刃物を突き付けられているような感覚で部屋の掃除をした。

フローリングの床にワックスを吹き付けて、クイックルワイパーで部屋中を磨いた。そのついでに冷蔵庫の中もベランダの物置も片付けた。
それから自身の少し伸びた爪を切って、風呂へと入った。

この部屋の中に汚いものが1点でもあることが許せなかった。
排水溝へと流れていく髪の1本ですら、あっては困るものだった。
< 21 / 25 >

この作品をシェア

pagetop