君があの子に、好きと言えるその日まで。完
一之瀬君が、元気ないねって、心配そうにいつも声かけてくれるの、実は嬉しかったよ。

そんな風に思いながら、私は体育座りをして、膝に頬を乗っけながら一之瀬君の方を向いた。


「……ありがとね、一之瀬君。これでもう、私の初恋と罪悪感も、無事に落ち着きそうです」

「初恋と罪悪感って、すごい語呂だな」

「はは、本当だね。……失恋したけど、でも意外と涙って出てこないもんだね。そのくらいの気持ちだったのかな……」

「そんなことないよ」

「いやー、いやいや……」

段々と今の複雑な感情を言葉にする術がなくなってきて、私は膝に顔を埋めた。

目を閉じると、星岡君のことを好きになったきっかけや、ドキドキしてしまった思い出が蘇る。



充電器を貸してくれたこと、

窓ガラスを突き破ってきた野球ボールから助けてくれたこと、

体育祭の実行委員決めの時にかばってくれたこと、

重たい資料をさっと奪ってくれたこと、

私の代わりに大きな声を出してくれたこと、

一緒にいてくれてありがとうって言ってくれたこと、


……あの日泣きながら、私を抱きしめてくれたこと。


その全てが嬉しくて、悲しくて、キラキラしていて、切なくて苦しくてどうしようもなくなる。

ああ、やっぱり、思い出すと止まらない。忘れられない。


「好きだったな……っ」


気づいたら、言葉が口を突いて溢れ出してしまった。

情けない声が乾いた屋上に響いて、切なくて胸が千切れそうになった。


好きだった。

好きでした。

……星岡君、君のことが。

たとえ伝えられなくても、届かなくても。

それでも君が好きでした。

この恋はいつ忘れられるでしょうか。君の笑顔を見て切なくならない日はいつやってくるのでしょうか。


大丈夫、忘れられる、大丈夫、忘れよう。

そう言い聞かせることでしか、自分を保っていられない。


恋をすると、人はこんなに弱くなるんだね。

知らなかった。

それを知れただけでも、君を好きになってよかった。


「もっちー、顔上げて」

「……大丈夫、ギリギリ泣いてないよ」

一之瀬君の声に、へらっと笑って答えると、彼は私の髪を優しく撫でた。


「……そうだ、もう私のこと好きなふりしなくていいからね。作戦に付き合ってくれて、ありがと……」

「やだ」

「え……やだって何が……」
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