君があの子に、好きと言えるその日まで。完
本当にそうなのかな……なんだかとても大切なことを話しているように見えたけど。

首を傾げている私を見て、星岡君は私の浴衣の袖を軽く引っ張った。


「……浴衣、いい感じじゃん」

「ありがとう、お母さんのおさがりだけど」

「誰と来てるの? 望月は」


そう聞かれて、一瞬だけ言葉に詰まった。

だけど、私は星岡君の瞳を真っ直ぐ見つめて、笑顔で答えた。


「一之瀬君だよ。私が土日暇そうだから誘ってくれたの」

「え……」

「今絆創膏に買いに行ってくれてて」


私の言葉に、なぜか星岡君は表情を固まらせていた。

けれど、すぐにハッとしたように首を振って、いつも通りの笑顔を見せる。

その一連の動作に疑問を抱きながらも、私は一之瀬君が人混みの中にチラッと見えたのを確認した。


さすがに、星岡君と一緒に行くのはまずいよね……。

そう思った私は、星岡君とここで別れようと言葉をかけた。


「一之瀬君来たみたいだから、じゃあこの辺で……また学校でね」

「おう、漫画忘れずに持っていくわ」

「そうだよ、忘れないでね。じゃあ、またね」


そう言って手を振り、星岡君に背を向けた。

秋祭りの熱気が、ぶわっとあたり一面に充満している。

大丈夫。胸が少しズキズキするけど、いつかこの失恋の痛みも薄れていく。


私はこの恋に、もう背を向けなきゃいけないんだ。


「……行くなよ」

……その瞬間、ぐいっと腕を引かれて、気づくと星岡君の方を振り向かされていた。

必死に振り切った直後なのに、どうして再び星岡君の方を向いているのか。

「え、なに、星岡君……」

とてつもなく動揺している私を見て、彼はしばらく俯いていた。

星岡君が何を考えているのか分からなくて、私もその場に固まったが、突然止まったせいで背後の人に押され、一歩星岡君の方へ近づく。

こんな至近距離で、どこを見たらいいのか分からなくて俯くと、星岡君がゆっくり口火を切った。


「……一之瀬のこと、好きなの?」

「え、なんで……」


なんで、そんなこと聞くの?

私が一之瀬君のことを好きだったら、何がどうなるの?

星岡君は、そんなに私と一之瀬君でくっついてほしいのだろうか。

そっか、そうだよね。二人は親友だし、一之瀬君はずっと私に気があるふりをしてくれていたんだもん。
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