木村先生と和也君
父さんと先生の話をしていると,食欲を誘う匂いが台所からしてきた。

俺は母さんのところに行く。

「今日の夕飯はカレー?」

「そうよ,和也の好きなものにしたの」

カレーは俺も父さんも好きなので,よく夕飯に出てくる。

「今日は和也が初めて彼女を連れてきた特別な日だからね~」

特別な日だけど,特別感のないメニューだ。なんて言って機嫌を損ねられても困るので何も言わない。

「母さんは,俺の彼女が先生でびっくりした?反対?」

父さんが話をすると言ってくれたが,少し頼りなさそうなので自分で話をすることにした。

「そりゃびっくりしたけど,反対はしないかな。母さんもいい年して学生のお父さんとお付き合いしてたし,反対できる立場でもないしね」

良かった。母さんも反対していない。

「年齢が離れていると,世間体とかいろいろあるけど,母親としては和也の幸せを一番に願ってるしね。やっぱり好きな人とくっつくのが一番よ」

自分の幸せしか考えてなかった父さんに対して,俺の幸せを願ってくれる母さんに俺はジーンときてしまった。

「だけど,和也もこないだまで子供だと思っていたのに,親離れしてしまったようでなんだか寂しいわ」

俺は何も言えなかった。

最近,友達や先生と一緒にいる時間を優先しているのは事実だ。

休みの日も勉強と部活ばかりで,両親とどこかに遊びに行くことも減ってしまった。

俺が何も言えずに黙っていると

「ま,いつまでも親離れしていないままでも困るけどね。激しい反抗期が来て他人様に迷惑をかけるのも困るし,このくらいが一番いいのかもね。」

母さんは俺を見てにっこりと笑った。

口には出さなかったけれど,もっと親孝行しようと思った。

先生と付き合っても,親に迷惑をかけることはしない。絶対。
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