お見合い相手は、アノ声を知る人
どうして、私が……
家に帰ると祖父が私を出迎えた。


「おかえり、明里」


人の良さそうな顔をした詐欺師が嬉々としてる。
それにムッとした表情を見せ、無言で草履を脱いで框に座った。


「一路君とはどうだった?少しは話せたのか?」


お願いしますと言った割には心配だったのかそう訊いてくる。


「普通に話せたよ。ついでに版画も綺麗だった」


大正、昭和と活躍した版画家の作品で、繊細な風景描写が見事過ぎてずっと見惚れてばかりいた。


「…いや、版画はどうでもいいんだが」


「お祖父ちゃん、お見合いのことを言ってるなら私は結婚願望なんてないから」


段差の低い玄関口で足袋を脱ごうと爪を外しだした。


「どうしてだ?一路君はなかなかのイケメンじゃないか」


「ああ、顔はね」


足袋の爪を外した後は、窮屈な足袋を踵から捲って脱ぐ。
両足を脱いでやっとホッとし、お次はこの着物だ…と立ち上がった。


「何が不満だ。顔だけじゃなくて仕事も出来ると聞いておる」


一臣様に…という言葉で、私の我慢は限界を越えた。


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