お見合い相手は、アノ声を知る人
この初対面で無愛想な人からお金を借りるなんて滅相もないし、そもそも借りたらまた返す為に会わないといけなくなる。


私はこの間からいろいろとあって、男なんて欲しくもないし、むしろ避けて過ごそうと決めてたのに……。



必死で平静を装いながら胸の内では途方に暮れる。
タクシーで帰ってもいいけど、今日は家の鍵すらも持ち合わせてない。


父も母も仕事でいないし、飼い猫のマルコに鍵を開けてと頼むのも無理だし……。


(どうしよう……困る……)


アイスティーをストローで飲み込みながら上目遣いに向かい側に座る人の顔を見た。



……やっぱり何処かで会ったことがあるか、見かけた様な気がする。


何処でだったっけ…と思い返していたら、無愛想な人の目線が私の視線とぶつかった。


ドキッと胸が竦んで急に逸らすことも出来ない。
たら〜と冷や汗を感じて、取り敢えずヘラ…と笑った。



「あんた、俺のこと忘れたんだろ」


ギクッとする様な言葉を吐かれ、何のこと?と見つめ返した。


やっぱり何処かで会ったことがあるんだ…と思い、恥を覚悟で訊いてみた。


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