恋するオフィスの禁止事項 ※2021.8.23 番外編up!※
ここでやっとエレベーターが来て、ふたりで乗り込み、私はすぐに開発部のフロアのボタンを押した。
一瞬沈黙になり、ちらりと先輩の横顔を覗き見てみると、さっきの怖い顔は嘘みたいに澄んでいる。
「……ビックリしました。先輩が私以外の人にあんなふうに怒ってるところ、初めて見ました」
先輩はそう呟いた私をすぐに見た。
桐谷さんは育成中の部下である私にはすごく厳しいしキツい言い方もするけれど、他の人にはあまり感情を表に出した物の言い方はしない。
私がキツく言われるのは全然平気だけど、こうして先輩が他の人に声を荒らげているのを見るのはなぜだか不安になる。
だって先輩が誤解されてしまうかもしれないから。
私のせいで先輩が誤解されることになるなんて、絶対に嫌だ。
「コケにされてんのがお前だったからな。まあ、アイツが俺の同期だったから強く言えたってのもあるんだけど。でも水野を怒るときとは全然違っただろ。今回はムカついたから言い返しただけだ」
「……私を怒るときは?」
「もっと愛を込めてる」
先輩の冗談に、ふふふ、と笑みがこぼれた。