ご令嬢は天才外科医から全力で逃げたい。
数か月後、先生に教えてもらったハルの転校先の学校へと僕は足を運んだ。

あの日の事実を伝えて謝罪した。

許してもらう為ではなく、裁いてもらいたかったのだと思う。

真実を誰かと共有して自分が楽になりたかったからなのかもしれない。

「そうか・・思った通りだな。父も危惧してたんだ。
自分の研究が莫大な利益を生む産物になってしまう不安を抱えていた。
遅かれ早かれだったのだと思う。それよりも・・聖人、お前大丈夫か?」

「なんでだよ。僕なんかより、君の方が心配なんだ。
唯一の肉親を失って君がどんな思いで生きてるか・・。僕は耐えられないよ!!父が許せないんだ。」

涙を流す僕を見て、ハルは慰めるように眉根を寄せて見上げた。

「そうだよな、聖人はそういう奴だ。
人の痛みを自分の痛みのように感じる事の出来る優しい人間だ。僕が唯一信頼出来る奴だ。
確かに、君の父親の事は許せない。だけど、君と君の父は別人格だ・・。
だから、君が背負う事ではないんだ。自分の人生を生きてくれ。」

過ぎていく風にサラッとストレートの長い髪を靡かせたハルは、僕を見て優しく微笑んだ。

「・・僕が許せないんだ。だから、全ての父の悪事の証拠を集めてる。
そしていつかこれを公開する・・。こんな事許しては駄目なんだ。」

力なく微笑む僕の顔を見て、ハルは驚いていた。

「そんな事をしたらお前や美桜は全てを失うかもしれないんだぞ。お前、馬鹿な真似は・・。」

「いいんだ。美桜だって!全てを知ったらあいつも同じように思うはずだ。
だから、その時は全てを壊す。
・・その前に、命に代えても美桜の目を覚まして檻から出す。」

ハルは、ゴクリと喉を鳴らして僕を見上げた。

「お前・・まさか・・・。父もそんな事は望んでない筈だ、落ち着け聖人!!」

「初めて出来た親友だった。ハル、君と出会えて良かった。」

僕の瞳を捉えた切れ長の瞳は揺れ動いていた。

踵を返してその場を去ろうと振り返る。

僕の肩を掴んだハルは真剣な眼差しで僕の目を見つめた。

「なあ、聖人。以前、美桜を檻から出そうと約束したよな・・。
もう1つ僕と約束しないか?
山科の闇を世間に公表する時は僕も一緒にやる。
その為に、僕は新しい人生を生きるよ。
僕はお前の共犯になる。だから頼む、一人で抱えるな・・。連絡を取り合おう。」

ハルの提案に僕の瞳は揺れた。

自分1人で背負い、完結させる予定のシナリオだった。

「駄目だよ・・。君は、自分の人生を生きてくれ!!」

「お前がそれを言うのか?復讐ぐらい殺された息子にやらせてくれよ。
僕は変わらず美桜が好きだ。
お前を失ったら彼女は1人になってしまう。あの家で、それはあまりにも残酷だ。」

そんなの分かっている!!でも、どうしたらいい?

僕の頬に一筋の涙が伝う。

ハルは僕の目の前に手を差し出した。

「僕達は天才だろ?2人なら負ける訳がない。僕達は共犯だ、一緒に必ず山科を倒そう。」

嗚咽と共にその手を取った。

握りしめたハルの手は温かった。
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